三枝昻之『昭和短歌の精神史』

三枝昻之『昭和短歌の精神史』(角川ソフィア文庫角川学芸出版、2012)を読んだ。2005年に本阿弥書店から出版された単行本が、今年になって文庫化されたもの。

短歌史を語る上で本書の重要性は紛れないと思うが、客観を志向する筆致の中でちらっと覗かせている思いの強さ、みたいな部分に個人的には打たれた。例えばp.181の次の部分。

ありがたいことに、どうしても回心することのできない自分を見つめつづける営為にも、詩は光を与える。イデオロギーが詩を保証するのではない。心の深部に光を当てるからこそ、詩であり、短歌なのである。

満州国の夢が破れたことを詠む歌に対して、著者はこのような賛辞を送っている。主張自体は率直に言ってかなりナイーブで、このままの表現ではあまり同意できるものではないのだが、とはいえ、十年の歳月をかけてこれだけのものを書いてしまう精神の強靱さを、十分に肯定的な意味において、どうしてもこういう部分に垣間見てしまう。

少しだけ批判を書いておくと、歌人擁護的な論調に見えてしまう点、そして女性歌人の取り上げ方がかなり小さい点が気になった。